整備工場

地方の小さな自動車整備工場の苦しい実情

今年に入ってから自動車関連産業はV字回復とも言えるほどの伸びを見せているようですが、それはあくまで大手自動車メーカーの話で、末端の小さな整備工場しかも地方のとなると話が違ってくるようです。
先日、昔からお世話になっている自動車整備工場に遊びに行ってきました。1年ぶりほどに見た整備工場は以前に比べて少し変わっているようでした。
そのとき色々と話をしたのですが、地方における小さな自動車整備工場の実情を見たような気がします。

信頼のおける数少ない車屋さん

よくあるように、その整備工場も車の修理以外に、車を売ったり買ったりもするいわゆる「整備工場」兼「車屋」さんという営業方法で、私のマイカーもそこで購入しました。

私みたいに車屋さんだったり、車の整備について多少なりに知識がある人間にとって信頼のおける車屋さんなんてほとんどありませんが、そこは安心して色々と頼める数少ない車屋さんと言っても良い所です。

その車屋さんは自宅に工場を併設した形のホントに小さな整備工場で、といっても2柱リフトが2基に使っている工具も超一級品という、車好きから見るととてもうらやましいと言うか格好良い車屋さんです。

社長の奥さんは自動車保険の代理店として、その工場で事務などをこなしていました。従業員も整備士を二人雇っていて工場にはいつも車があふれていました。いつ、その工場に行っても2基のリフトには常に車が載っている状態で、とても忙しそうな印象でした。少なくとも去年の今頃までは。

久しぶりに工場を訪れると何故か誰もいなかった

いつも唐突に訪問するので、社長や奥さんがどちらかがいなかったりするのは珍しいことではないのですが、その日は工場に誰もおらず事務所には鍵がかかっていました。

誰もいないなんて珍しいな、と思いながらも社長の携帯に電話をかけたらお客さんの車がトラブったとのことで、その車を引き取りに行っているところだったようです。
もうすぐ戻るからということでそのまま工場で待つことにした私は、久しぶりに来たついでにクルマ好きの憧れのような工場を見学することにしました。

その工場に着いたときから気になっていたのですが、やたらと置いてある車の台数が少なく修理中と思われるクルマは1台リフトに載っているだけでした。
更に驚いたことに、2基のリフトのうち1基には修理中の車が載っていましたが、もう一基のリフトはクルマが入る場所に部品やら荷物やらが大量に置かれていて、どう見ても最近使ったような感じではありません。

自動車産業の景気は急回復中と言うけれど

工場を見ながら少し不安になっていると社長が出先から戻ってきました。挨拶を交わしながら最近の景気の話だとかを持ち出すと、社長はその苦しい実情を少し話してくれました。

社長によると自動車業界の景気が上向いたからと言っても、それは大手メーカーのことで末端の小さな整備工場などはとてもじゃないが商売が成り立つような状況ではない、ということでした。
修理に入る台数も激減し、新車・中古車問わず車は売れず困っていると言うんです。
しかもそれは、個人経営の工場・車屋だけの話ではなくてディーラーにおいても大差がないと言うんです。今年に入ってから、あるディーラーがメーカーへ新車を大量に発注してその仕入れ代金を支払えずに大変なことになっているという内容です。

その話には更に裏事情があるようで、ある個人経営の車屋がそのディーラーに大量の新車を発注してその代金が払えずに焦げ付き、ディーラーも仕入先のメーカーに入金が出来なくなったらしいのです。
個人経営の車屋は一度に数十台の新車を発注してディーラーに値引かせ、それを転売して1台あたりいくらかの利益を得ようと考えたようで、新車の販売実績の欲しかったディーラーもその話に乗ってしまったゆえの結末で、なんともお粗末な話です。

普通に考えたら、そんなに都合よく数十台もの新車を短期間に転売できるはずなどあるわけがないのですが、その車屋さんもよほど切羽詰っていたのでしょう。結局は計画通りに行かずに失敗に終わったようです。

社長いわく「もう、ホントにおかしなことになってるよ」

先のディーラーと車屋の話も含めて、社長はそう言っていました。私はその言葉を聴きながら「これは、相当大変なんだな」と感じ、改めて自動車産業の末端企業がおかれている現状を目の当たりにした気分でした。

私は更に話をしながら、気になっていたことを聞いてみました。

私「ところで、今日は奥さんいないんですか?」
社長「うん、外に出てるよ。というか今は外に働きに出てる」

この言葉にはちょっとショックを受けました。いつも事務所で保険の処理やら工場の事務仕事をしていた奥さんは、別な仕事をしているというのです。
あえて聞きませんでしたが、以前二人いた整備士はどうやら既にいないようでした。

日本の経済再生にはまだまだ程遠いと改めて実感

私は社長にまた来ます。と挨拶して工場を出ましたが、複雑な心境でした。

信頼している車屋さんだけに、その苦しい実情を知ると気の毒な気がして、なんとか頑張って欲しいと思いますが、現実は厳しいようです。
最近になって新車だけでなく中古車の需要も伸びてきていると聞きます。早くまともな整備工場にも仕事が満足に回る様になってほしいものです。

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